自動車の窓から上半身を乗り出す「箱乗り」。選挙カーの候補者や警護のSP(Security Police)が行う姿を見たことがある方も多いでしょう。
しかし、一般車両での箱乗りは極めて危険で、道路交通法違反となる行為です。
この記事では、箱乗りとは何なのか?の意味や語源から、法的位置づけ、実際の事故事例まで徹底解説します。
車男爵
箱乗りとは?意味と語源|なぜ「箱」なのかを解説
箱乗りとは車の窓枠に腰を掛け上半身を外に出した状態で乗る方法のことを言います。
特に助手席で行われることが多く、窓から身を乗り出した姿は非常に目立つため、かつての暴走族や選挙カーの光景でよく見られました。
- 箱乗りの語源
- 現代での用例
箱乗りの語源
「箱乗り」という言葉は、実は農作業に使われていたリヤカー(荷車)に由来しています。昔の箱型のリヤカーの箱の縁に腰をかけて乗ることを「箱乗り」と呼んでいました。
この乗り方は、リヤカーの荷台に荷物が積まれている状態で箱の内側には座れないため、箱の縁に腰掛けて足を箱の内側に垂らして乗るという形になります。
これが現代の自動車の窓枠に腰掛けて上半身を外に出す姿と似ていることから、「箱乗り」という呼び名が使われるようになりました。
現代での用例
箱乗りという言葉には、いくつかの用例があります。
- 自動車の窓枠に腰掛けて乗ること。(最も一般的な用法)
- トラックの荷台に乗ること。
- 特に新聞記者などのジャーナリスト用語で取材で相手の乗り物に同乗すること。
箱乗りは違法?─道路交通法と罰則を条文でチェック
一般的な箱乗りは明確な道路交通法違反となります。具体的にどのような違反になるのか、例外規定も含めて詳しく見ていきましょう。
- 一般車で箱乗りをすると何条に触れる?
- 選挙カーはなぜシートベルト免除でもアウトなのか?
- SP警護の箱乗りは許される?
一般車で箱乗りをすると何条に触れる?
一般車で箱乗りをすると以下の道路交通法違反に該当します。
違反項目 | 主な条文 | 罰則(普通車) | 補足 |
シートベルト着用義務違反 | 71条の3 | 反則金6,000円/点数1点 | 窓枠乗車では装着不可 |
座席外乗車禁止 | 55条 | 5万円以下の罰金 | 窓枠は「乗車装置」外 |
安全運転義務違反 | 70条 | 罰金・懲役 | 転落リスク等で該当 |
共同危険行為禁止 | 68条 | 3年以下懲役または50万円以下罰金 | 暴走動画で適用例あり |
71条の3
道路交通法第71条の3では、運転者及び同乗者にシートベルト着用が義務付けられています。
箱乗りは窓から上半身を出す行為であるため、必然的にシートベルトを着用できない状態で行われます。したがって、この規定に明確に違反しています。
罰則としては、シートベルト非着用の場合は反則金(普通車で6,000円、高速道路では12,000円)と違反点数(1点)が科せられます。
55条
道路交通法第55条では、運転者は車両の乗車のために設備された場所以外の場所に乗車させ車両を運転してはならないとなっています。
座席以外に乗車させた運転者には5万円以下の罰金または科料、乗車した者にも2万円以下の罰金または科料が科される可能性があります。
70条
道路交通法第70条の安全運転義務違反にも該当する可能性があります。
同条では「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定められており、箱乗りのように安全運転を妨げる行為は違反となります。
68条
暴走族のように複数の車両が集まって箱乗りをするような場合には、道路交通法第68条「共同危険行為等禁止違反」に該当することもあります。
3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、2021年に首都高で箱乗り運転をした男性が逮捕された事例では、この共同危険行為違反が適用されました。
選挙カーはなぜシートベルト免除でもアウトなのか?
選挙カーについては、道路交通法施行令第26条の3の2において、シートベルト着用義務が免除されています。これは選挙運動中の例外規定です。
しかし、シートベルト着用義務が免除されていても箱乗りは依然として違法です。
シートベルトの免除があっても、窓枠に腰掛けて身を大きく乗り出す箱乗りは座席以外の場所への乗車にあたり、道路交通法第55条違反となります。
また、選挙カーの運転者には、道路交通法第70条に定められる安全運転義務があり、箱乗りを容認することはこの義務に反します。
この2つの法令を根拠として、選挙カーでは、シートベルトを着用せず、窓から身を軽く乗り出し手を振る程度であれば許容されていますが、腰を窓枠に乗せ上半身を大きく外に出す「箱乗り」は違法となります。
SP警護の箱乗りは許される?
要人警護を担当するSP(セキュリティポリス)による箱乗りも、条件付きで合法とされています。
道路交通法第26条の3の2では、「人命や危害を及ぼす行為の発生の警戒、その行為を制止する職務に従事する公務員」は、シートベルト着用義務が免除されると規定されています。
SPはこの条項に該当するため、箱乗りが認められているのです。
実際の警護では、高速道路の合流部や交差点通過時などに、SPが窓から身を乗り出して他の交通を制止し、警護対象車をガードする光景が見られます。
これは交通の安全と円滑な進行のために必要な行為として認められています。
専門家によれば、SPの箱乗りは単なるパフォーマンスではなく、要人の安全を確保するための実用的な技術であり、厳しい訓練を受けたプロフェッショナルによって行われる特殊な業務の一環と位置づけられています。
箱乗りの危険性と実際に起きた事故
箱乗りは見た目以上に危険な行為です。どんな危険があるのかについてと実際の事故事例を見てみましょう。
- 箱乗りの物理的な危険性
- 【事故1】埼玉栄高校のグラウンド事故(2024年11月)
- 【事故2】福岡県篠栗町横転事故(2023年11月)
- 【事故3】首都高速共同危険行為逮捕(2021年11月)
- 【事故4】北海道釧路町転落死亡(2004年11月)
箱乗りの危険性
箱乗りは非常に危険な行為で、以下のようなリスクがあります。
- 急ブレーキ・段差で転落による頭部強打
- トンネルや対向車との外部接触
- 落下後に後続車に轢過される二次被害
- 運転や周囲の車両がパニックを起こす誘発事故
以下より、実際の事故事例をお伝えします。
【事故1】埼玉栄高校のグラウンド事故(2024年11月)
2024年11月、埼玉栄高校のグラウンドで発生した事故では、車窓から身を乗り出していた17歳の生徒が、車両が横転した際に車と地面の間に挟まれて死亡しました。
この事故では、無免許運転だった16歳の生徒が自動車運転処罰法違反(無免許過失致死)の疑いで調査を受けています。
【事故2】福岡県篠栗町横転事故(2023年11月)
2023年11月2日未明、福岡県篠栗町の若杉山の峠道で発生した事故は、箱乗りした同乗者がいながら運転手が制御できないほどのスピードで運転し、カーブを曲がりきれずに事故を起こしたとされています。
事故の内容を、箇条書きで分かりやすくお伝えします。
- 21歳の男性が運転する軽自動車が横転
- 箱乗りをしていた女子高校生が命を落としました
- 運転手は危険運転致死傷罪の疑いで逮捕された
- 運転手以外の3人全員が「箱乗り」をしていた
刑事責任では、運転者は自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。
民事上の賠償責任についても、運転者は、同乗者が「箱乗り」をしていることを知りながら運転した場合、安全運転義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。
過失相殺により被害者側(箱乗りをしていた人)にも過失があるとして、損害賠償額が減額される可能性がありますが、運転者の責任が完全になくなることはありません。
【事故3】首都高速共同危険行為逮捕(2021年11月)
2021年11月、首都高速道路の湾岸線下りで箱乗り運転をした男性2名が逮捕されました。
この事件では、男性らが友人とともに計4台の車で追従走行しており、道路交通法第68条の「共同危険行為等禁止違反」で逮捕されています。
また、箱乗りが単なるシートベルト着用義務違反にとどまらず、より重い罪に問われる可能性があることを示しています。
神奈川県警が公開した動画には、男性が運転席の窓から身を乗り出し、赤く発光する誘導灯を右手で振り回す様子が映っていました。
次の章でもお伝えしますが、この事件はSNSでも拡散され話題となりました。
【事故4】北海道釧路町転落死亡(2004年11月)
2004年11月、北海道釧路町の国道44号線で、20歳の男性が「箱乗り」の状態で乗用車の助手席に乗っていたところ、車外に転落しました。全身を強く打ち、出血性ショックが原因で数時間後に死亡しました。この事故では、運転していた21歳の男性が業務上過失致死容疑で逮捕されています。
SNSで話題になった最新の箱乗り事例
近年ではSNSの普及により、箱乗りのような危険行為が拡散するリスクが高まっています。特に若年層への影響は深刻です。
主な事例を3つ紹介します。
- 【事例1】首都高速共同危険行為逮捕(2021年11月)
- 【事例2】鈴木宗男氏の選挙カー助手席から乗り出し
- 【事例3】安倍首相のSP
【事例1】首都高速共同危険行為逮捕(2021年11月)
近年でもっとも話題になった事例として、首都高速道路での箱乗り暴走で20代の会社員男性2名が逮捕された事件があります。
男性らが友人とともに計4台の車で追従走行しており、首都高において運転席の窓から身を乗り出し、赤く発行する誘導灯を右手で振り回す箱乗りをする様子を動画撮影し、SNSに投稿しました。
この行為により、2人は道路交通法第68条の「共同危険行為等禁止違反」の疑いで逮捕されました。
この事件は、「事故を起こしていないのにここまで大ごとになるとは思わなかった」という容疑者の発言が物議を醸しました。SNSでの拡散が社会的関心を集め、警察の摘発につながった事例として注目されています。
【事例2】鈴木宗男氏の選挙カー助手席から乗り出し
著名な例として、鈴木宗男氏が選挙カーの助手席から身体を大きく乗り出し、「箱乗り」に近い状態で手を振る姿がテレビ番組で放映され、SNS上で「だんじり」「ヤッターマンの出動」などと話題になりました。
番組では「選挙期間中とはいえ、あそこまでいっていいものなのか」という問いに対し、「いいんですよ」と断言されていましたが、実際には法的にはグレーゾーンまたは違法と考えられる行為です。
このように、選挙カーの「箱乗り」に対する認識と法的解釈の乖離が、SNS上での議論を呼んでいます。
【事例3】安倍首相のSP
安倍首相(当時)の警護車が、箱乗りで高速道路に合流する様子が海外のネット上で話題になったこともあります。SPたちの訓練された素早い動きが注目を集め、日本の警備体制の特徴として海外メディアでも取り上げられました。
箱乗りと似て非なる行為|オープンカー乗車やルーフ乗りと比較
箱乗りに似た行為にはいくつかありますが、法的位置づけや危険性は大きく異なります。
乗り方 | 法律の位置づけ |
オープンカー乗車 | 正規座席+シートベルト→合法 |
ルーフ乗り(Car Surfing)> | 車外露出が大きく更に危険、海外で死亡例多数 |
サンルーフからの上半身露出 | ベルト解除で違法かつ危険 |
トラックの荷台乗車 | 祭りや農作業は警察許可で合法化可能 |
オープンカー乗車
オープンカーは車両設計上、上部が開放されていることが前提となっていますが、シートベルト着用が可能であり、適切な着用で合法的な乗車となります。
ただし、オープンカーであっても過度に身を乗り出すような行為は危険で、避けるべきです。
ルーフ乗り(Car Surfing)
ルーフ乗り(車の屋根に乗る行為)は、箱乗りよりさらに危険度が高い行為で、完全に車体の外部に出る行為となります。
明確な道路交通法違反であり、より重い罪に問われる可能性があります。
2023年には京都府城陽市で、乗用車の屋根部分に座っていた20代男性が、車が約5メートル下の河川敷に転落した事故で死亡しました。
この事故では、運転していた男性が自動運転死傷処罰法(過失運転致傷)の疑いで逮捕されています。
また、海外では箱乗りに類似した行為は「Car Surfing」と呼ばれ、若者の間での危険な遊びとして社会問題となっています。
- 米国疾病予防管理センター(CDC)の調査によると、1990年から2008年の間に多数の死亡事故が報告されており、その多くは頭部外傷によるものでした
- 2023年には、コロラド州ダグラス郡で「car surfing」中の事故で16歳の少年が死亡する事故が発生
- 2021年にはパキスタンでSNSに投稿するための動画を撮影中、18歳の少年が列車と衝突して死亡しています
これらの事故事例からも分かるように、箱乗りは娯楽や一時的な興奮のために行う行為としてはリスクがあまりにも高いと言えますね。
サンルーフからの上半身露出
サンルーフ(車の屋根に設けられた開閉式の窓)から上半身を出す行為も、箱乗りと同様に道路交通法違反となります。
シートベルトを外す必要があり、シートベルト着用義務違反になります。
また、体の固定ができないので、急ブレーキや衝突時に車外放出される危険があります。
他にも、箱乗り同様に体が外に出ているため、外部障害物との接触する危険もあります。
トラックの荷台乗車
トラックの荷台に人を乗せることは、道路交通法第55条違反となり一般的には禁止されています。
ただし、警察への申請・許可を受けることで、祭りやイベントなど特定の目的での荷台への人の乗車が認められる場合があります。
また、一部地域では、農作業などの特定目的での荷台乗車が慣習的に許容されている場合があります。
まとめ
箱乗りとは、車の窓枠に腰掛けて上半身を外に出す乗り方で、その名称はリヤカーの箱の縁に腰掛けて乗るという昔の乗り方に由来しています。
法的には、箱乗りは道路交通法違反にあたる行為です。シートベルト非着用と座席以外への乗車という2つの点で違法となり、運転者と乗車者の両方が罰則の対象となります。
選挙カーやSP警護車両においても、原則として箱乗りは禁止されていますが、公務執行の必要性から一定の許容がなされている場合があります。ただし、これは一般車両では認められない特例です。
箱乗りは非常に危険な行為であり、転落による死亡事故も複数報告されています。運転者は同乗者が箱乗りしていることを知りながら運転した場合、刑事・民事両面で重い責任を問われる可能性があります。
SNSの普及により、危険な箱乗り行為が拡散・模倣されるリスクも高まっています。
車男爵