ニュースやSNSの動画で、車の窓から身を乗り出す「箱乗り」を見て、驚いたり危険だと感じたりしたことはないでしょうか?
「若気の至り」や「イベントでのパフォーマンス」として軽く見られがちですが、実際には道路交通法違反となるだけでなく、命を落としかねない極めて危険な行為です。
また、「選挙カーやSPは箱乗りしているのに、なぜ一般人はダメなのか?」という疑問を持つ方も多いかもしれません。
この記事では、「箱乗り」の本来の意味や語源、警察に検挙された場合の罰則、そして人生を棒に振る3つの致命的リスクについて徹底解説します。
知らなかったでは済まされない「例外」や「グレーゾーン」についても触れていますので、ご自身と大切な人の安全を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
箱乗りとはどういう意味?言葉の定義と由来
「箱乗り(はこのり)」とは、自動車の窓枠に腰を掛け、上半身を車外に乗り出した状態で走行する行為のことです。
ニュースやSNSで危険運転として取り上げられることが多いですが、本来は別の意味を持つ言葉でした。
この章では、箱乗りの定義や由来について、以下のポイントから解説します。
- 本来は「トラックの荷台」に乗ることだった
- 暴走族文化と「箱乗り」のイメージ変遷
- 英語で「箱乗り」は何と言う?海外でのニュアンス
以下より、詳しく解説します。
本来は「トラックの荷台」に乗ることだった
「箱乗り」という言葉の語源は、建設現場や物流の現場で使われていた業界用語にあります。
かつて、トラックの荷台(=箱)やリアカーのあおり部分に作業員が腰掛けて移動することがあり、これを「箱に乗る」と表現していました。
高度経済成長期の現場では、効率優先でこのような乗り方が見られましたが、現在では安全基準が厳しくなり、荷台への乗車は原則禁止されています。
あくまで作業現場での移動スタイルを指す言葉であり、当初は現在のような「窓から身を乗り出す行為」を指すものではありませんでした。
暴走族文化と「箱乗り」のイメージ変遷
1970年代から80年代にかけて、暴走族ブームが到来すると「箱乗り」の意味合いが大きく変化しました。
暴走族がチームの威光を誇示するためのパレード走行において、改造車の窓枠に座り、車外に身を乗り出すスタイルを確立したのです。
- 危険運転の代名詞
- 周囲を威嚇する行為
- 法規を無視した無謀なパフォーマンス
現在では、この暴走族文化のイメージが定着し、箱乗りと言えば「窓から身を乗り出す危険行為」を指すのが一般的となっています。
英語で「箱乗り」は何と言う?海外でのニュアンス
日本特有の「箱乗り」に完全に合致する英単語は存在しませんが、状況に応じて以下のように表現されます。
- 物理的な動作 ⇒ Leaning out of the window(窓から身を乗り出す)
- 法的な扱い ⇒ Reckless driving(無謀運転)
海外でも「Car Surfing(カースーフィン)」と呼ばれる、屋根や窓に乗る危険行為が問題視されていますが、日本の箱乗りのように「窓枠に座る」という独特のスタイルは、日本独自の暴走族文化に由来するものです。
罪になる!箱乗りが該当する違反とは?
箱乗りは単なるマナー違反ではなく、道路交通法に抵触する明確な違法行為です。
警察に検挙された場合、運転者と同乗者の双方に責任が問われます。
主に以下の違反が適用される可能性があります。
- 1. 安全運転義務違反(第70条)2点・9,000円
- 2. 座席ベルト装着義務違反(第71条の3)1点
- 3. 乗車積載方法違反(第55条)1点・6,000円
以下より、各違反の内容を詳しく見ていきます。
1. 安全運転義務違反(第70条)2点・9,000円
道路交通法第70条は、運転者に対して「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定めています。
これは最も包括的な違反であり、同乗者が箱乗りをしている状態を放置して運転を続けた場合、運転者の責任が問われます。
- 運転者には同乗者の危険行為を制止する義務がある
- 箱乗り状態での走行は車両の安定性を欠く
- 周囲の交通に恐怖感を与える
「同乗者が勝手にやった」という言い訳は通用しません。運転者は車両の管理者として、安全な運行を確保する義務を負っています。
2. 座席ベルト装着義務違反(第71条の3)1点
箱乗りをするためには、物理的にシートベルトを外す必要があります。
そのため、箱乗りを行っている時点で自動的に「座席ベルト装着義務違反」が成立します。
2008年の法改正により、後部座席を含む全席でのシートベルト着用が義務化されています。「助手席じゃないから大丈夫」ということはありません。
反則金はありませんが、違反点数1点が加算されます。これは違反の「入り口」に過ぎず、後述する他の違反と合わせて検挙されるケースがほとんどです。
3. 乗車積載方法違反(第55条)1点・6,000円
道路交通法第55条では、「乗車のために設備された場所以外」に人を乗せて運転することを禁止しています。
車の窓枠は「座席」ではないため、そこに人を乗せる行為自体が違法となります。
- 窓枠への着座
- トランクへの乗車
- 屋根の上(ルーフ)への乗車
速度が出ているかどうかは関係ありません。たとえ徐行であっても、窓枠に座って走行した時点でこの違反が適用されます。
車男爵
絶対やめて!箱乗り3つの致命的リスク
「警察に捕まるかどうか」以上に恐ろしいのが、事故に遭った際のリスクです。
箱乗りは、あなたや大切な人の人生を一瞬で破壊する可能性があります。
ここでは、以下の3つの致命的なリスクについて解説します。
- 1. 転落・衝突により死亡事故の発生もあり
- 2. 任意保険が免責(不払い)になる可能性が高い
- 3. 被害者になっても重過失で賠償金が大幅減額の実例あり
それぞれの詳細を、心して確認してください。
1. 転落・衝突により死亡事故の発生もあり
箱乗り状態で事故が起きれば、生身の体はひとたまりもありません。
実際に以下のような凄惨な事故が発生しています。
- カーブの遠心力で車外に放り出され、後続車に轢かれる
- 看板や電柱、ガードレールに頭部が激突する
- パワーウィンドウの誤操作で首が挟まり窒息する(ギロチン事故)
埼玉県や福岡県では、10代の若者が箱乗り中に転落し死亡する痛ましい事故が近年も発生しています。
車内なら助かったはずの命が、窓から身を出していただけで失われてしまうのです。
2. 任意保険が免責(不払い)になる可能性が高い
これが最も知られていない、経済的な破滅リスクです。
自動車保険(任意保険)の約款には、保険金を支払わないケースとして「被保険者の重大な過失」や「極めて危険な乗車方法」が含まれていることが一般的です。
箱乗りは「自ら危険に飛び込んだ行為(故意に近い重過失)」とみなされ、怪我の治療費や死亡保険金が一切支払われない(免責となる)可能性が極めて高いです。
数千万円、場合によっては億単位の賠償や治療費が、すべて自己負担になる恐れがあります。
3. 被害者になっても重過失で賠償金が大幅減額の実例あり
たとえ「もらい事故」の被害者であっても、箱乗りをしていた事実は不利に働きます。
これを「過失相殺(かしつそうさい)」と言います。
通常なら100%相手が悪い事故でも、被害者が箱乗りをしていた場合、「損害の拡大に寄与した」として賠償金が大幅に減額されることがあります。
本来受け取れるはずの慰謝料が10%~25%程度(状況によってはそれ以上)もカットされ、十分な治療を受けられなくなるケースも過去の判例で存在します。
参考
好意同乗と過失相殺(交通事故の損害賠償)法律事務所エソラ
SPや選挙カーの箱乗りに対する例外と実際
「でも、SPや選挙カーは箱乗りをしているじゃないか」と思うかもしれません。
しかし、彼らには法的な根拠や特別な事情が存在します。
ここでは、以下の例外について解説します。
- 公務上の法的根拠があればSP(警護車両)は箱乗りが許される
- 選挙カーが許されるのはシートベルト着用!箱乗りはの自粛要請
一般車両とは全く前提が異なることを理解しましょう。
公務上の法的根拠があればSP(警護車両)は箱乗りが許される
要人警護を行うSP(警護官)が身を乗り出す行為は、道路交通法第57条や公安委員会規則に基づく例外規定により認められています。
- 要人の命を守るという高度な「公益性」がある
- 特別な訓練を受けたプロフェッショナルである
- 法に基づいた「警護活動」の一環である
彼らは命がけで任務を遂行しているのであり、一般のドライバーが遊び半分で真似をして良いものではありません。
選挙カーが許されるのはシートベルト着用!箱乗りはの自粛要請
選挙期間中、候補者が選挙カーに乗車する場合、公職選挙法に基づき「シートベルト着用義務」は免除されます。
これにより、窓から手を振るなどの活動が可能になります。
- 免除されるのは「シートベルト着用」だけ
- 「乗車積載方法違反(第55条)」は免除されていない
- 警察や選挙管理委員会は箱乗りの自粛を要請している
実際には、安全性の観点から多くの候補者が箱乗りを自粛しており、床に立って上半身を出すスタイルや、デッキ付きの特別車両を使用するなどの対策をとっています。
「選挙カーだから箱乗りOK」というのは誤った認識です。
箱乗りじゃないからOK?大丈夫と思いがちなグレーゾーン行為
「完全に座らなければ大丈夫」「ちょっと手を出すだけなら」という油断が事故を招きます。
一見セーフに思える以下の行為も、実は非常に危険で違法性が高いものです。
- 手やスマホだけを窓の外に出す
- 子どもやペットを窓から顔だけ出させる
- サンルーフから上半身を出す・立ち上がる
- オープンカーで立って乗る・座席を離れる
それぞれの危険性を確認していきましょう。
手やスマホだけを窓の外に出す
走行中、風を感じるために手を出したり、スマホで撮影したりする行為です。
時速60kmで飛んでくる小石や虫が当たれば相当な衝撃になりますし、スマホを落とせば後続車を巻き込む大事故になります。
また、看板や対向車と接触して腕を骨折するケースもあります。
子どもやペットを窓から顔だけ出させる
子どもや愛犬が窓から顔を出している光景を見かけますが、これは「ギロチン事故」のリスクと隣り合わせです。
- パワーウィンドウの誤操作による首の挟み込み
- 急ブレーキ時に窓枠に強打
- 車外への転落(積載物転落防止措置違反になる可能性も)
子どもにはチャイルドシートを正しく着用させ、窓をロックする(チャイルドロック)のが親の責任です。
サンルーフから上半身を出す・立ち上がる
「窓じゃないからOK」と勘違いされがちですが、サンルーフから体を出す行為も道路交通法第55条(乗車積載方法違反)の対象です。
- 屋根には体を支えるものがない
- 急ブレーキでルーフエッジに胸部を強打する
- 高さ制限のある看板や高架に頭部が激突する
過去には、サンルーフから顔を出していた子どもが高さ制限バーに衝突し死亡する事故も起きています。
オープンカーで立って乗る・座席を離れる
オープンカーであっても、走行中は座席に座り、シートベルトを着用する義務があります。
パレードのように特別な許可を得ている場合を除き、座席の上に立ったり、背もたれに腰掛けたりする行為は違反となります。
まとめ|箱乗りは危険と損失が圧倒的に大きい行為
箱乗りは、一時のスリルや目立ちたいという気持ちに対して、支払う代償があまりにも大きすぎます。
- 道路交通法違反での検挙・罰金
- 万が一の事故での死亡・重傷リスク
- 保険金が下りない経済的破滅
- 一生消えない「無謀な運転者」というデジタルタトゥー
これだけのリスクを背負ってまでやる価値のある行為など、公道には存在しません。
車男爵


